私がピアノを好きになれたことや、ピアノ自然教育を通して子どもたちにできることを書きました。小冊子もご用意していますので、よろしければご覧ください。
「自然×ピアノ 子どもわくわく力を育む」の小冊子
ピアノ大好きだった子ども時代!でも練習は……
私がピアノを始めたのは、3歳3か月のとき。きっかけは、母がピアノのレッスンに連れて行ってくれたことでした。
学生時代ピアノを弾くのが大好きだった母は、「音大に進みたい!」と思ったそうです。ところが思い立ったのは高校3年のとき。もう受験するには準備が間に合わない時期で、泣く泣くあきらめたのだとか。
小さい頃から楽しそうに歌う私の姿を見て、母はうれしく思っていたそうです。そして、「この子には早くから、しかるべき音楽教育を受けさせてあげたい」と考え、ピアノを習わせてくれたのです。
先生のご自宅に行くと、いつもにこやかに、そして優しく迎えてくれました。その先生は、ピアノ教育の第一人者・安川加寿子先生に師事した方。とても貴重な体験をさせてくれた母には感謝しています。
私にとって、ピアノは大好きな存在でした。でも実は、“練習すること”自体は好きではなかったように思います。
ピアノが上手に弾けるようになるには、毎日コツコツ練習すること、もっと言えば“練習を習慣化すること”が大切なんです。
これってピアノの話だけではなく、勉強やスポーツもそうですよね。練習するリズムさえ体に入れてしまえば、毎日しないと気が済まなくなります。練習すればどんどん弾けるようになり、もっと練習したくなります。
でも、まだ幼かった私は、ピアノも好きだけど、友だちと遊ぶことも大好き。練習量が足りなくて、レッスン当日を迎えても
「まだちゃんと弾けない……」
なんてことが何度もありました。だから母の用事でレッスンをお休みすることになった日は、「やったー!」って飛び跳ねたのを覚えています。きちんと練習していたら、もっと上手くなっていたんだろうなと、遠い目をしてしまいますが……。
ただ、ピアノをやめたいと思ったことは一度もありませんでした。周りがほめてくれるのが、うれしかったんです。小学校の全校音楽会でピアノ伴奏を弾くと、みんなが
「ななちゃん上手~、すごーい!」
って寄ってきてくれて、一躍人気者になれました。他にもピアノを弾く子はいましたが、私は背が高く、手も大きく、割と上達も早い方だったんだと思います。
「みんなの伴奏は私がやらなくちゃ!」
という使命感がありました。
ほめられると、お子さんはやる気を出します。大好きなママやパパからほめられると、なおさらでしょう。ぜひピアノの演奏をたくさん聴いて、たっぷりほめてあげてほしいなと思います。
ライバルがいるって、ステキなことなんです!
さて、4年生、5年生のときだったでしょうか?そんな私に転機が訪れます。めきめき上達した子に突然、伴奏の座を奪われてしまったのです!しかもその子は、勉強もよくできました。
さらに、「ピアノの練習、毎日5時間もしているらしいよ」なんて噂まで流れてきて、私史上人生最大のピンチが訪れます。
「これはすごい子がライバルになった!」
「私は5時間以上練習するんだ!」
と、私もいよいよスイッチが入ります。練習の鬼になり、練習が習慣になりました。すると!前の年には通らなかったコンクールの本選に行くことができたんです!
練習を習慣化すると指が早く動くようになります。難しかった曲だってすらすら弾けるようになります。
例えば、憧れだった「子犬のワルツ」「トルコ行進曲」などが仕上がったときの喜びは、この上ないもの。難しい曲になればなるほど達成感は大きくなり、みるみる上達していきます。
すると、はじめてたどり着ける境地があるんです。心から音楽を表現できる楽しさも湧き上がってきます。それは
「こんな素敵な世界があるんだ!」
という、自分の生きがいを見つけてしまうような感覚なのです。
「練習は大事。習慣化しよう」って頭で分かっていても、なかなか難しいですよね。でもやっぱり、練習を習慣化しないと、目覚ましい上達は望めません。だから
「ライバル出現!どうしよう!?」
という刺激はとてもいいこと。私のように、自然と練習が習慣化するかもしれません。
ライバルといっても、決して敵対心を持つとか、打ち負かすということではないんです。
「お手本」「目標にしたい人」をぜひ見つけてください。私のピアノ人生には、ずっとライバルや目標にしたい存在がいました。優しかったピアノの先生、難しい曲を弾きこなす憧れのお姉さん、努力家で勉強もピアノも上手だった同級生、そしてピアノの楽しさを教えてくれた母も。
ライバルをみつけるために、お子さんにテレビの音楽番組を見せてあげてください。機会があれば、ピアノ演奏会や発表会にも連れて行ってあげてください。
プロや年上のお姉さんが弾いている曲を聴いて、お子さんが
「いつかあの曲を弾いてみたい!」
って目を輝かせたら、もうしめたもの。その曲のCDを聴いてイメージを膨らませると、自然とわくわくして、日々の練習のモチベーションが上がりますよ。
習慣化のコツは「タイミングを決める」こと
ここで「習慣化」について、具体的な話をします。習慣化するにはコツがあります。それは「タイミングを決めてしまう」ということです。
例えば、帰ってきたら手洗いうがいをするし、寝る前には歯を磨きますよね?それと同じで、いつピアノの練習をするのか、タイミングを決めてしまうのです。
ポイントは、わかりやすいタイミングにすること。例えば、
- 幼稚園や小学校から帰ってきた後の15~30分
- 夕飯前や夕食後の30分
などは、続けやすいのでおすすめです。
とはいえ最初は、なかなか練習しようとしないかもしれません。声がけする親御さんにとって、最初の1週間ぐらいは労力がかかり、大変かと思います。
でも逆に考えると、大変なのはその1週間だけ。これまでの経験から言えば、大体のお子さんが1週間ぐらいで習慣化します。たった1週間をきっかけにお子さんの世界が広がると考えれば、頑張れそうだと思いませんか?
そのときに役に立つのが「れんしゅうチェックシート」です。
このシートには練習内容や目標を書き入れて、ピアノに貼っておきます。項目をクリアしたら◯をつける、それが1週間できたらスタンプを押すなど、楽しんで使えるように工夫してみてください。ゲーム感覚だと達成感があり、お子さんのやる気にもつながりやすいと思います。
たしかに、0→1にするのはとても労力がいります。
でも、1→2へは意外と進みやすいものです。たとえ今まで習慣化できてなかったとしても、今気づいて0→1にすれば、1か月後には1→2→3→4とスムーズに進んでいくのではないでしょうか?歯車が回りだすと親御さんは何より、お子さん自身が楽しくなり、自ら練習するようになりますよ!
みんながピアニストになる訳じゃない!
ピアノの仕事というと、クラシックの一流ピアニストを思い浮かべるかもしれません。
「プロになるわけでもないのに」
「それならピアノなんか習っても意味がないのでは?」
なんて感じていませんか?
ピアノを習う子ども全てが、音楽の道を選び、ピアニストになるわけではありません。これってピアノに限らず、どんな習い事でも同じですよね。
私の弾くピアノは、はっきり言って一流ではありません。
でも、シーンに合わせて演奏するという点では、感動してもらえたりセンスがあると言ってもらえたりします。大学を卒業してから14年間、ブライダル演奏を続けてきました。大切にしているのは、その時々の空気感に合わせて音楽を展開させることです。
例えば、ご両親に今までの感謝をお伝えするシーンや、牧師先生がお二人へこれからの結婚生活で大切なことなどをお話しされるシーンでは、静かなテンポで弾き、メッセージが伝わりやすいように。お二人を隔てていたウエディングヴェールを上げる瞬間や、誓いのキスをする瞬間などの山場は、より感動が盛り上がるように。
ブライダル演奏では、曲とシーンのタイミングをぴったり合わせる技術が必要です。だって、せっかく感動的なシーンなのに、ピアノが淡々と表情も変えず、スタスタ曲を進めていってしまったら興ざめですよね!
新郎新婦の動きを見ながら弾くので、もちろん楽譜はほぼ暗譜。ドレスの長さが違えば、歩く速さも違うので、様子を見ながらテンポの調整が必要です。
演奏しているのは私だけではありません。歌手の方と一緒だったり、時には他の楽器の方がいたり。だから私だけの判断でテンポを変えるわけにはいかないのも難しさの一つです。
新郎新婦にテンポ感を合わせる、他の演奏者と呼吸を合わせる、盛り上がりも余韻も感動でいっぱいの演奏をする……難しいことだらけですが、数をこなすうちにコツをつかむことができました。演奏でお二人の晴れの場のお手伝いをできるのは、とても幸せなこと。思わず私まで泣いてしまうことも少なくありません。
もちろん私も、難易度の高いクラシックの曲を弾くこと、しかも華々しい舞台で弾くことは、この上ない喜びです。新しい境地に到達できますし、決して大げさではなく
「こんなに素晴らしい音楽と出会えて、生きていて良かった」
と感じるぐらいの深い感動に包まれます。
でもピアノの楽しさは、大きな舞台で難しい曲を弾くことだけではありません。ブライダル演奏のように、裏方に徹してその場の空気感をつくり、喜んでいただけることだってできるのです。
ピアノを習ったらきっと、ワクワクする気持ちを音楽で表現したり、音楽で遊んだりする楽しさを見つけられるはず。そして、見つけるためのお手伝いもしたいなと、いつも思っています。
コンクールは挑戦すべき?しなくていい?
ピアノを習い始めると、コンクールに挑戦してみようと思う場面も出てくることでしょう。私も小学4年生くらいから、夏休み期間に地域で開催しているコンクールや全国規模のコンクールなどを受けていました。もちろん音大を卒業し、社会人になってからも受け続けました。
自分の限界に挑戦するわけですから大変です。心が折れそうになり
「これってやり続ける意味あるのかな?」
「ピアノの仕事は上手くて才能ある人が進む道だから、もっと安定した正社員の仕事をした方がいいのかな?」
と思うときも、数えきれないぐらいありました。
コンクール前は毎回、先生のご主人にも特別レッスンをしていただきました。コンクールの審査員長も務めておられる尊敬すべき方。数々の上手な生徒さんを育ててこられてきた、すごい方です。
それだけに、私の演奏はダメなところばかり。
「あ~、だめだめ!こう弾かないと」
「ちょっとこれじゃ、本番は恥さらしになっちゃうよ」
など、注意されてばかり。もちろん先生からほめられることはほぼ皆無でした。
そんなある日のこと。先生から「今度はこういう風に弾いた方が良くなるよ」とのアドバイス。次のレッスンに向けて、猛練習です。
自分なりに解釈を深め、何度も何度も練習し、これならほめてもらえると確信していました。ところが、先生ご夫妻は顔を見合わせて苦笑い。
「ちょっと解釈が行きすぎちゃったね」
「その演奏は違うなあ」
思わぬ言葉に、私は精神的に追い詰められてしまいました。
やっぱり一流の音大に通う人たちのようには弾けない……出口が見えず、落ち込みました。でも、ふと気づいたのです。アドバイスしていただいた表現に固執しすぎていたことに。全体を通し“音楽を心の中で歌う”という大事なことを忘れてしまっていたのです。
その日からは、自分の演奏を録音し、俯瞰して聴くことを続けました。もちろん音楽を心の中で歌いながら弾くようになりました。すると、どんどん楽しくなり、ミスタッチもしなくなったのです。
そして、いよいよ次のレッスン日。先生の口からはこんな言葉。
「今の演奏素晴らしいよ!すごいじゃない!」
「オーストリアから来る審査員の先生もなんて言うか楽しみだよ」
あまりにも衝撃的でした。何が起こったのか分からなくなるぐらい、めいっぱいのほめ言葉をもらいました。しかも、ほめられた上に先生が感激している!?という状況。
ずっとコンクールに向けて頑張ってきたけれど、光が見えたことはありませんでした。
でもようやく、一筋の光が見えた瞬間でした。コンクールを受け続けて良かった、ピアノをやめずチャレンジしてきて良かった。「誰にでも可能性はある」ということを、身をもって体験したのです。
きっとこの話は、私の大学時代のピアノ科の友人に話すと、とんでもなく驚いて一緒に喜んでくれるだろうと思うのですが、きっとこれを読んでくださる方々にも、私のこの上ないうれしさが伝わるのではないかと思います。
私の尊敬する教育者・八田哲夫先生はご著書の中で、
「継続は力なり、継続は能力なり」
と書いておられます。この言葉に触れ、私は思わずひざを打ちました。どんなに高いと感じる山も、一歩一歩進むことで頂上にたどり着くことができるのです。
コンクールに挑戦するのは大変なこと。友達と遊ぶ時間を削りながら毎日コツコツ練習することになります。
しかも、進歩している実感が持てず、練習を投げ出したくなる自分自身に負けないように努力し続けていかなければいけません。
でも、やり続ければ力になります。「もうだめかもしれない」と思ったときこそ、自分が伸びるとき。自信を持って子どもたちに伝えたいと思っていますし、背中を押してあげられたら幸せだなと思っています。
半数以上の子が悩まされる手の形のこと
ピアノを弾くときは「手の形」がとても大切です。基本的なフォームを守れないと、余分 な力が入って疲れてしまったり、うまく弾けなかったりする原因になります。
私が教えている生徒さんには、他の教室で習った経験のある子もいます。見ていると、半数以上が正しい手の形で弾けていないのが実情です。これは、なぜでしょうか?実は小さい頃に“卵を握るように”と意識したことが原因なんです。
まだまだ小さな子どもの手。卵を握るように意識すると、逆に力が入ってしまいます。実は私自身、今も正しい手の形でピアノを弾けません。同じく小さいとき、卵を握るようにして弾いていたからです。
自分の手の形が正しくないことに気づいたのは、小学校高学年のとき。音大受験を視野に入れ始め、目指す音大の付属音楽教室に通い始めたことがきっかけでした。
レッスンのたびに先生から手の形のことを繰り返し言われ続け、自分でも治す努力をしてきたつもりでした。でも、長年の間に染み付いた弾き方というのは、いくら練習しても直りませんでした。
手の形で大きなポイントになるのは“指の付け根の山を高くする”ということ。指の付け根の関節が凹んでしまわないように意識します。そして付け根から指先まで、指が自然なアーチを描くようになっている形が理想なんです。
この形で弾くことで、腕や手首の力を抜いて弾くことができます。だから速いパッセージもすらすら弾けますし、余計な力をかけないのでピアノの弦にもやさしく、もちろん自分の手にも負担をかけません。
だから私のレッスンでは、子どもたちに正しい手の形を教えることを大事にしています。第1・第3関節を出すことを意識づける「玉ひも」というアイテムを使ってトレーニングしたり、形が乱れてきたら、その都度声がけしたり。
私が苦労し、悩んだ経験があるからこそ、正しい手の形をちゃんと教えてあげたいな、子どもたちが楽に楽しく音楽ができるといいな、そう思ってレッスンしています。
緊張するクセは克服できる!
人前でピアノを弾くと、誰しも多少は緊張してしまうものです。でも、できるだけ緊張せず、普段通り弾けるといいなって思いますよね。私もこれまでのピアノ人生で“緊張”という問題については色々なことがありました。
昔は幸い緊張とは無縁で、大学生の頃まではむしろ、練習より本番の方がうまく弾けてしまうくらいでした。でも、卒業して4年間ピアノと少し距離を置いたら、緊張するようになったんです。
手が震えて音を外してしまったり、頭の中が真っ白になってしまったり。緊張したときのメンタルについて何も考えず過ごしてきたので、もう人前では弾けなくなってしまったのではと、途方に暮れてしまいました。
特に印象に残っているのが、音大を卒業して5年目、久しぶりに受けたコンクール。自己向上のために自主的に受けるコンクールですから、気合が違います。音大受験時と同じくらい必死で練習しました。
「ここまで準備したのだから大丈夫」
「うまくいかないはずはない」
という状態で本番に臨んだら……なんと全身が硬直し、手の震えも止まりません。果たして最後まで弾き通せるかも分からないほど。大きな不安に包まれたままの演奏になってしまったのです。
目の前の目標が砕け散ってしまったように感じた私は、それから約1週間、まともに食事がのどを通りませんでした。
人生が終わってしまったような挫折感。周りのみんなも、私が珍しく猛練習していることを知っていたので、腫れ物に触るように気を遣い、慰めの言葉をかけてくれました。
そんなとき、当時は友人だった今の夫から、たまたま連絡がありました。そして一連の出来事を話した後に、こう言われたんです。
「なーに緊張なんてしてるんだよー」
すごく気持ちが楽になりました。落ち込んでいるときほど、意外とストレートな言葉が心に響くのかもしれませんね。
緊張グセはなかなか完全には抜けませんでしたが、それ以来コンクールでも“良い緊張感”を持って弾けることが増えてきました。演奏前には、深呼吸してリラックス。すると力が抜けつつも良い緊張感に包まれるようになったのです。
良い緊張感があると、心も身体もぐっと引き締まり、パワーが出てきます。すると心から音楽の流れに乗ることができ、自然とミスタッチもせずパフォーマンスが上がるのです。
「うちの子、本番で緊張してしまうんじゃないかしら?」
って気にしていませんか?大丈夫です!“緊張くん”や“ドキドキちゃん”を味方にしましょう。そうすると集中力もアップして、音楽の素晴らしさを感じて演奏できるようになるんですから。私もそのお手伝いをしますよ!
集中力や良い緊張感の育て方
では、本番を良い緊張感で迎えるには、どうすれば良いのでしょうか?
大前提として、もちろん十分準備することは大事です。他にも、自分が今まさに弾いている、その瞬間の音楽を感じることも大切です。さらには聴いてくださっている方々に、伝えたい想いを表現することが特に大切なことです。
目の前の音楽に集中し、指先が触れている鍵盤を感じながら演奏すれば、雑念がなくなります。すると、
「審査員の先生はよく評価してくれるかな」
「この先の盛り上がりは、先生が注意しなさいと言われた部分だから気をつけないと」
などと、身を硬くすることはありません。すると良い緊張感が生まれ、良い演奏ができるのです。
でも、目の前の音楽に集中するって、難しいですよね?頭では分かっていても難しいはず。そこでおすすめしたいのが「本番前こそ、普段通り過ごす」ということなんです。
これは、私が優れた演奏家さんたちにリサーチして得たセオリーです。最初に出す音から思わず聞き入ってしまうような、感動的な演奏をされる方々に尋ねてみたんです。
「本番前に心掛けていることは何ですか?」
「何か特別に、普段と違うことをされますか?」
すると、意外な答えが返ってきました。
「本番前には特別なことはしません」
「いつものルーティーンを、いつも通りするだけです」
皆さん口を揃えて、こうおっしゃったのです。例えば、リラックスしながら曲に入り込んで演奏しているイメージをしたり、集中するために長く息を吐いてから吸うなどの丹田呼吸法(腹式呼吸)をしたり。
もっとシンプルなルーティーンもあります。楽器奏者の男性にお聞きした話です。その方は「本番前に10分ほど寝る」ことがルーティーンなんだとか。たしかにこの方、本番前に座りながら寝ている姿を時々見かけました。「お疲れなのかしら?」なんて失礼なことを思っていたのですが、違ったのですね。
近年、昼寝を推奨している会社が増えています。たしかに昼寝って効果を感じます。電車や車でほんの少しウトウトしたら、起きたときに頭がスッキリしていたという経験をお持ちの方、きっと多いと思います。
どうやら10~20分の昼寝をすると、即座に注意力や認知能力が高まったり、パフォーマンスや気分が向上したりといった効果が得られ、しかもなんと3時間にわたってその状態を継続することが科学的に証明されているようです。
いきなり本番前に試すのは勇気がいりますが、普段のルーティーンとして取り入れ、自分のタイミングを掴めばできそうな気がします。ただ、歌い手さんや話し手さんは声帯が寝てしまうようなのでそれはできないとか……なるほど。
良い緊張感を味方につけると、結果として自分の能力を最大限に発揮することができます。そして、自分自身の未来を作っていくことに繋がっていることも心底感じています。
「どう見られているか?」を知ることは大切
人前でピアノを弾くことは、楽しいことです。でも、いわゆる自己満足の演奏だともったいないなと思います。
「自分の演奏は、どんな風に見えているのかな?」
「聴いている人に、どう伝わっているのかな?」
ということを考えると、より曲の情景が浮かび上がってきて、その世界に入り込む体験ができます。自分はどう見られているのかを客観視するために、おすすめの方法があります。それは、映像を使うこと!
例えばピアノの発表会の映像を見ると、色々なことが分かります。どんな風にお辞儀しているのか、どんな姿勢で弾いているのか。
「こんな風に見えているんだ!」
というイメージがつかめると、お子さまのモチベーションにつながりやすいと思います。
そして、発表会後の振り返りも大切ではありますが、映像で見たことを生かすなら、むしろ演奏会前が良いでしょう。なぜなら発表会が終わると、限界までその曲をつくり上げたという達成感を感じてしまい、その曲を弾き続けることは少なくなくなるから。
ベストなタイミングは、目標に向かって最も熱があるとき。具体的には、発表会の曲を暗譜でき始める1か月前くらい。最初は録音から始めて、半月前ほど前から映像を撮って見返してみるのがおすすめです。
演奏会の半月前になれば、人前で弾くこと自体は既にできるはず。
「ここはもっと歌うように弾いた方がいいな」
「体が揺れ過ぎない方がいいな」
などと、自分の理想の演奏像ができて見せ方や聴かせ方の力が格段にアップし、本番もうまくいきます!
なぜ私がこんなに録音や録画にこだわるのかというと、自分自身の経験があるからです。中学生のとき、私は吹奏楽部でクラリネットを吹いていました。半年ほど経った頃、友だちからこんなことを言われました。
「ななちゃん、最近やっと音が綺麗になってきたね」
この言葉を聞いて、私は「え!?私の音はこれまで、綺麗ではなかったの?」と、衝撃を受けました。当時の私の傲慢さが出ているエピソードですが、小さい頃からピアノを続けてきた私は、
「人より音感もあるし、クラリネットくらい吹ける!」
と、高をくくっていたのです。
でもたしかに、クラリネットの音を出すことに関しては初心者。声をかけてくれた友人は私より先にクラリネットを始めており、何より音感が良く、いい耳を持っていました。だからショックを受けながらも
「言ってくれたことは本当なんだろう」
と受け止め、自分の音は周りにどう聞こえているのかを気にするようになりました。
部活の発表の場では、両親がビデオ撮影をしてくれました。映像を見てビックリ。自分が思うように演奏できていない……。すごく悔しかったです。
でも、貴重なきっかけになりました。ピアノのレッスンも録音するようになり、自分の演奏を客観的に聴く習慣ができると、“できていないこと”がハッキリ分かるようになりました。数え切れないくらいの学びがあったので、本当におすすめしたいと思います。
自然の力もめいっぱい生かしましょう!
良い演奏をするには、ピアノをコツコツ練習することが大切です。でもピアノを離れ、自然の中でお子さんを遊ばせるのはとてもいいこと、ピアノの上達にもつながることだと思っています。ぜひこんなことをしてほしいな、と思うことを紹介します。
(1)鳥や虫の声に耳を傾ける
日本人は鳥や虫の声を、「左脳」で聴いていること、ご存じですか?だから、スズメの鳴き声は「チュンチュン」、コオロギの鳴き声を「リーンリーン」といったように、言語化できるんです。
これは欧米人にはないこと。こうした音を右脳で受け取る欧米人には、鳥や虫の声はただの“音”、いわば雑音として聴こえるんだそうです。
山や川に行ったら、親子でぜひ耳を澄ませてみてください。鳥や虫の声だけではなく、小川のせせらぎや風の音も、日本人は言語化できます。こうした特権を使わない手はありません。どんな声が、どんな風に聴こえてきますか?たくさんの音に触れ、たくさん表現してみましょう。
(2)出会った人に声をかける
自然の中の散策道や山道では、人と出会います。道ですれ違った方と「こんにちは」と挨拶をしたり、困っているのを見かけたら「大丈夫ですか」と声をかけたりしたいものですね。
特に都市部ではご近所付き合いも少なくなり、人との関係が希薄になっています。年齢や性別を越えた相手とコミュニケーションをとることは、共感力や自己肯定感を育み、いい演奏にもつながっていきます。
(3)色々なことにチャレンジする
例えば初めて水に顔をつけるとき、怖がるお子さんって多いと思います。でもそんなときに親御さんが、声をかけてあげてほしいのです。
「顔を洗ってごらん。できたね!」
そんな声をかけてもらうと、お子さんは一歩を踏み出しやすくなります。さらに小さな行動を一つひとつ促して、ほめてあげるのです。
「じゃ次は、おでこをつけてごらん。すごい!それもできたね」
気づけばお子さんは、どんどん行動しているはず。そうしたら、もうしめたもの!ママやパパにほめられながら困難を克服していけたら、お子さんは大きな喜びを感じ、チャレンジ精神や向上心がどんどん育っていきます。
勇気を踏み出し、乗り越える。この成功体験は、必ずピアノにも生きます。難しくて弾けるイメージがわかない曲も、丁寧に楽譜と向き合うことによりスムーズに弾けるようになる。その達成感は、これからお子さんが成長していく上でかけがえのない自己肯定感になり、自信につながることでしょう。
あと、自然豊かな場所に行ったら、親子一緒に土の上をはだしで歩いたり、海や川に体をつけたりしてみてください。これはグラウンディングやアーシングと呼ばれる方法で、体に滞留している電磁波を、地面や海、川に流すことができると言われています。ぜひ貴重な自然体験をたくさんしてくださいね。
ピアノ上達のためには「食」も大切なんです
ピアノと食事。あまり関係ないと思うかもしれません。でもとても大事なこと。ピアノを弾くと、脳も体もフル回転します。だからレッスンや本番前には、脳にエネルギーを補給して、集中力を高めてくれるチョコレートを食べるといいでしょう。
リズムを感じながら、瞬時に体全体のエネルギーが出せる状態にしておくことも大切です。瞬発力がつくよう、お肉もしっかり食べてくださいね。
高学年にもなると、お通じの悩みを抱える女の子も増えてきます。腸の調子は、モチベーションを保つのにはとても大事です。おなかが気になると、ピアノ演奏にも集中できないですよね。
これは私の体験なのですが、野菜を全て宅配の無農薬固定種野菜にして、お肉も抗生物質不使用のものに変えたら、体調がすごく良くなりました。
お値段は多少張ってしまいますが、だからこそ大事に食べ、切れ端しも出汁にして余すところなく使うと、とにかく食べた後の腸の様子が全然違います。後味も良く、食べた後に
「最高ー!幸せー!!」
と、思わず心の中で叫んでいます。
どんな食事をしているかで、あらゆる場面でその違いが現れてきます。例えば集中できたり、モチベーションを保てたり、本番には自分の気持ちをコントロールできたり。成長のために、親御さんにはぜひ栄養バランスも含め、日々気をつけていただきたいなと思います。
時には、ちょっぴり離れてみても大丈夫!
長く続けてほしいと願って始めたピアノ。それなのに、お子さんが練習せず遊んでばかり、上達もしない、そもそも本当に楽しいのかしら……そんな場面に直面するときもあるかもしれません。
親御さんだって忙しく大変な毎日を送っているはず。ついお小言ばかり並べてしまいたくなるかもしれません。
そんなときはいったん、ピアノから離れてみるのも一つの方法です。ふとした時にピアノを楽しそうに弾いている子を見たり、テレビで演奏会の様子などを目にしたりすると、自発的に弾きたくなるはず。“その時”がくることを信じ、見守ってあげてください。
そして親御さんもぜひ、1日5分だけでもご自分をいたわる時間をつくってほしいと思います。時には趣味に没頭したり、マッサージを受けてリラックスしたり。
ご自分にご褒美を与えることは必要経費です!家庭にも新鮮な空気が入りますし、子どもにも朗らかな気分で接することができます。
私が尊敬する原邦雄先生は、「ほめ育」という教育メソッドを作った方です。自分をほめること、つまり「自分ほめ」を習慣化することの大切さを、たくさんの著書で伝えておられます。眠る前に一日の出来事を振り返るだけでも、
「自分はこんなことができた!」
と自分を認められる行為になるのでとてもいいそうです。 私自身も毎日寝る前、こんな風に自分ほめしています。
「夜遅かったのに、ちゃんと野菜を小分けにできたね」
「時間がなかったのに、ピアノの指の練習だけでも隙間時間でやったね」
「美容院で初めて頭を洗ってくれた人に、マッサージが気持ち良かったこと、勇気を出して伝えられたね」
こんな風に、ちょっとしたことでいいんです。他にも「眠かったのに、最後まで夫の話を聞いてあげられたね」とか(笑)
自分ほめを実践するようになってからは、生徒さんのいいところを、前よりもたくさん見つけられるようになりました。ぜひ始めてみてくださいね。
お子さんの気持ちに寄り添い、良さを引き出します
世の中には、たくさん素敵なピアノの先生がいらっしゃいます。厳しいけれど全身全霊で魂を込めて教えてくれる先生もいれば、生徒が本当に理解するまで待ちながら丁寧に教えてくれる先生などなど……。私も今まで素晴らしい先生とたくさん出会い、ピアノを習ってきました。
そんな中で私は「お子さんの気持ちに寄り添いながら、その子の良さを最大限引き出してあげられる先生」でありたいと思っています。
例えばお子さんはレッスン中に、遊び半分でちょっとした自作メロディをつくることがあります。たしかに、レッスンの進む方向からは外れてしまうかもしれません。でも、お子さんが創作意欲をもつのは、とても大切だと思うんです。
だから、まずは新しいことができたことをたっぷりほめ、
「それは何をイメージしているの?」
「じゃあ、もっとわくわくした気持ちで弾いてみようか」
と声をかけ、「表現したい!」という気持を引き出すようにしています。
子どもの頭は柔らかいので、他にも半音階を発見したり、手を交差して弾く新しいテクニックを発見してしまったりすることもあります。そんなときも
「よく発見できたね!」
とほめ、その弾き方で色々なメロディを一緒に弾き、楽しむようにしています。
私は今、ドイツ人の先生にドイツ語とヨガを習っています。
いつでも私の気持ちに寄り添い、問題が解けなくて行き詰まっていると、笑顔で教えてくださります。キツくて辛いヨガのポーズをしているときも、「スマイル☆」という言葉が聞こえてくるときがあり、「あっ、笑顔を忘れていた!」と心が温かくなるんです。
先生のレッスンが終わった後は、ドイツにトリップしてきたような幸せで楽しい気分。私もこんな気持ちにしてくれる先生を目指し、お子さんと日々接しています。
実はドイツ語を習っているのは、理由があります。よく「音大を卒業したなら、ヨーロッパに留学するものではないの?」言われます。でも学生時代にヨーロッパに留学できるのは、音大全体で見ると少人数。コンクールで華々しい成績を収めた人だけでした。
あるときのこと、尊敬する先生がオーストリアに出発。「まだ勉強したいから」と、ヴァイオリニストの娘さんと一緒に、1年間の留学に行かれたのです。
生涯勉強し続ける姿勢を見て、私も刺激を受けました。そして、学生時代には叶わなかったけれど、夏季セミナーや講習会など短期レッスンの機会を活用して、ドイツやオーストリアで勉強することを実現したいと思うようになりました。
何歳になっても夢があるのって楽しいし、そんな背中を見てもらって、子どもたちにも夢を持ってもらえたら良いなと思っています。
最後に
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。お子さんへの想いやレッスンの雰囲気など、伝わりましたでしょうか?
レッスンを通して一緒に、楽しみや生きる喜びをたくさん見つけましょう。チャレンジしながら壁を乗り越える力も身につくよう、めいっぱいお手伝いします。
そしてご縁があれば、一緒にドイツ・オーストリアに行けたらいいな、素晴らしい音楽がつくられた世界を全身で感じながら、たくさんの幸せな経験ができたらいいな、とも思っています。
そんな毎日を夢見ながら……素敵なお子さんと貴重な一歩を踏み出せることを、楽しみにしています。